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インタープレイを“き”かせてくれ

ジャズ好きな、そこそこ年のいったライターのブログです。周囲の誰よりも早く、コレステロールの薬飲み始めました。

【ちょっとネタバレ】鑑定士と顔のない依頼人

なんとなくタイトルが気になったので視聴。

 

感想から言うと、良かった。かなり。

 

主人公は美術品の敏腕鑑定士ヴァージル。まじめで神経質そうな白髪・やせ形の老人。

 

食事をするシーンがいかにも優雅で、ワインを美しく飲みながら、小さくカットしたお料理を姿勢を崩さず口元まで運んでいく。

 

以前食事のマナーについて取材したことがあるが、完璧な所作。お店の計らいで誕生日ケーキがサーブされても、誕生日数時間前だからと断る。うーむ、神経質。

 

 

そんなヴァージルのトレードマークは、革の手袋。

 

携帯など、他人のものを借りるときにもハンカチーフ越しに行う。潔癖症がかもしだす雰囲気も、いかにも敏腕鑑定士って感じだ。

 

どことなく、名探偵ポワロを演じた名優、デビットスーシェ的な雰囲気。孤独かつビューティフルな生活は、どこか寂しさも感じる。映像美というよりも、演技力で魅せる。名優だ。

 

そんな神経質で仕事のできる男のヴァージル、裏では知人と手を組んで、金額を低く鑑定した名画を我が物にする落札詐欺を行っていた。

 

真っ白で清潔な自室に、機械式の隠し扉がある。その中には、広い空間があり、女性達の肖像画(全て名画)が壁一面に飾られている。膨大な数の絵画の視線を一手に集め、安楽椅子に腰を沈める。安堵の表情を浮かべ、目を閉じるヴァージル。

 

絵画の女性達はみな母性と愛に満ちた目をし…。

 

実はちょっとヴァージルの気持ちも分かる…。

 

フェルメールの絵を見た時に近い。ため息と共に、その女性の腹に顔を埋めたくなるような、なんか奇妙な感覚…。

 

そんな、ちょっぴりというかものごっつく人生に疲れている、倒錯したじいさん。高尚な脳みそをしているのかと思ったら、意外とスケベ。

 

匿名でお屋敷の家財の鑑定・競売を頼んできた女性に恋心を抱いてしまう。

 

この女性は、両親が亡くなったので、家財を全て競売にかけたいという富豪の娘だとか。しかし、顔を見せない。気になったヴァージルは使用人などに尋ねるが、それがデフォだと言われ、当初正体は分からない。

 

神経質なヴァージルは、顔の見えないクライアントにいらだちをつのらせ、帰ったふりをして覗き見をする。若干変態の気がある。

 

模糊曖昧とした対象である女性に対して、どんどん惹かれていくヴァージル。

 

 

おまけに帰り際に、屋敷の床に落ちている部品を見つけた。

 

これ…。もしかして高名なオートマタ(でかくてしゃべって動く人形)の部品じゃねぇ…と、気づく。

 

さまざまな欲にかられるヴァージル。

 

そして…。

 

見所は、欲にかられ落ちていくじいさんと、ヒス持ち女のヒロイン。

 

(こう書くとすごいな…。)

 

とにもかくにも、白髪の神経質じいさんが、若いメンヘラ女に恋心を抱きつつ、伝説のオートマタの部品を集めるというのがメインの流れ。

 

恋心というまやかしに、一人の男が恥も外聞もなく絡め取られていく。完璧だった彼の生活に、欲という美しさのない濁りが徐々に混じっていく。

 

 

オートマタというしゃべるデク人形は、どんなささやきをしてくれるのか。

 

どうしても気に入った字幕のセリフが耳から離れない。

 

「貞節はもっとも異常な性的倒錯」

 

愛とは嫉妬まじりの性欲と話したのは、どんな映画監督だったか。

どこまでも落ちていく敏腕鑑定士の結末に、ちょっとだけ悲しくなった。

 

そんな映画。

 

美しく、静かな悲しみと、恥じらいが混じっていた。