インタープレイを“き”かせてくれ

ジャズ好きな、そこそこ年のいったライターのブログです。周囲の誰よりも早く、コレステロールの薬飲み始めました。

松島観光について

先だって、撮影の案件によって宮城県を訪れた。

 

手前味噌もいいとこながら、なかなかアーティスティックな撮影を行うことができたと自負しており、会社の報告書にそう記した。ものの1時間で、全社員からツッコミをもらうほど順調な仕事内容だ。

 

そのまま帰宅することもできたものの、転職以来1度も使ったことのない遊休、もとい、有給を使用してみたくなり、2年ぶりに休暇を得た。

 

仙台で1泊2日の仕事を終えたのち、15日午前に雑務を終わらせ、午後から、晴れて懲役免除となった。

 

敬愛する荒木飛呂彦先生の作品舞台となっただけあり、関東地方とはまた違った趣の街並みは、舌だけではなく目でも存分に楽しませてくれる。

 

そんな仙台とも、早々にグッドバイして、松島での宿泊とすることとした。

 

道すがら、実家に稲荷社があるご縁で、本筋である塩竈神社に参詣。

 

本宮にご挨拶を済ませて裏参道から下ろうとすると、遠く彼方に松島を見た。

 

ハッと足を止めるほどの迫力があり、すわ日本かと思うほどの絶景だ。

 

これからあそこに行くのかとワクワクしながら電車に乗ったが、仕事の疲れも相まって早々に失神。

 

気づけば石巻の手前にさしかかろうとした所。

慌てて引き返し、這々の体で宿にチェックインした。

 

実は1番手だった、部屋からの絶景を売りにした旅館からは単身旅行を理由に断られ、

(知り合いの旅館経営者に聞いたところ、単身者の豪遊旅行は自殺の危険があるからだとか)

2番手としたこの旅館。

 

小高い山の上にあり、はて登山道だったかと思えるほどの坂道をのぼる。駅から徒歩20分。

 

遠い…が、部屋からは日本三景を遙かに見下ろすことができ、古いながらもサービスの行き届いた宿は満足の一言。

 

仙台市内で泊まった、お水のお姉ちゃんが出入りするシティホテルは、一体なんだったのかと思いをはせながら(夜の宿泊客の元気さには辟易した)、夕飯に出掛ける。

 

獣道のような公道をくだり、コンビニの駐車場から海岸へ抜けるという、天性の方向音痴を駆使したナビゲーションにより、無事海岸まで到着。夕暮れに染まる松島は、空の曇天などまるで感じさせない美しさだ。

 

フラフラ歩きながら、近くの海鮮料理屋「さんとり茶屋」へと訪れた。

 

カウンターで供される三陸のうまい幸。瓶ビールはたちまちなくなり、焼酎に手を出す。

シェリーカスクで熟成されたという香りのいい仙台焼酎「壱」をたらふく飲み、手持ちぶさたなので、地元紙の河北新報を読む。

 

至福の時間とはこのことで、地元紙のゆったりとした地域面も、また良い肴だ。

 

料理に舌鼓を打ちながら店内に目を向けると、大変活況とした店にも、震災の跡は残っている。

 

人の良い親方の立ち回るカウンターには、津波の到達した高さに張り紙があり、さきほどまで地方の遊興を伝えていた紙面も、1枚めくれば震災関連ニュースが続く。

 

ようやく岩手の被災者に、車の貸し出し準備が整ったという記事を見れば、震災復興などまだまだ道半ばなのだと理解できる。

 

食べ付けた相模湾の魚よりも、脂ののった身は、存分に旬を味わわせてくれた。

帰り際に、女将さんと少し話しをすると、店の混雑による配膳の遅れをしきりに謝ってきた。

 

特段、気にも留めていなかったが、その気遣いには敬服する。

 

人もいい、肴もいい、酒もいいとくれば、文句の付けようもない。

 

外にでると、眼前に広がる黒い海。ふんわりと香る潮の香りに、まあ見るだけが観光ではないと満足していると、月明かりが厚い雲から差し込んできた。

 

人工的な光の乏しいこの湾内に、突然、満願色の景色が浮かんでくる。

 

近くの喫煙所で食後の一服に火を付けた。

日本三景を横目に、胸に溜まったオリと一緒に、煙を吐き出す。なんとも贅沢な一服である。

 

なんとはなしに歩いて帰りたくなり、さきほど下ってきた坂道を登る。

 

遠くに見える宿の明かりに、やっぱりタクシーを拾えばよかったかと後悔を感じたものの、振り返った遙か眼前にある景色を見れば、案外これも悪くなかったように思う。

 

所詮門外漢である私に、復興云々など語るべくもない。

 

ただ、この日本でも有数の優しさを持つ人々の胸を借り、話を聞きながら酒を飲ませていただいた。その酒が最高にうまかった。今、この場においては、それでけでもいいのかもと思った。この出来事を忘れなければ。

 

ふと窓を見れば、塩竃灯台だろうか。暗い室内にちらちらと灯りがさす。

自然という強大な災難に包まれた人々は、それよりも強い心を持って、この街に根をおろしている。

 

「松島や ああ松島や 松島や」とは、松尾芭蕉が詠んだ句だが、今となっては、景色を指すことだけではないのだろう。

 

強い、強い人々の魂に、少し涙が出る。

 

二の句がつげぬとはまさにこのこと。

 

うまい一杯を頼りに、もう少し頑張らなくてはと思いながら、年相応に疲れた足をもみ、床につく。